読んだことがない人も、この機会にまずは1巻パラッと試し読みしてみては? 目次 埋められない十八歳という歳の差――。 花塚邸の主人かつご隠居こと花塚敬二郎(はなづかけいじろう)と、将棋勝負をする文治。 将棋には性格が出ると語る敬二郎は、文治のことを「のらりくらりと掴み所のない男じゃな」と称しました。 しかし、敬二郎は「こうと決めたら必ずやり遂げる」という一念をもって事業に取り組み、歩が金になるように一代で財をなしておりました。 文治は爵位持ちの家の生まれということが、第十八話では明らかになったのでした。 懺悔でもするように「恨むか ワシを」と文治に問う敬二郎。 ですが、姫子は文治にほのかな恋心を抱き、文治も姫子のことを「気に入ってます」と語ります。 ある日唐突に、文治は姫子のことを「狸」に例えました。 好きな人となんでも同じがいいお年頃の姫子は、文治に「狐さんがいいですっ」と訴えますが、文治は「狸」「狐」の仕分けに優劣はないと優しく諭しました。 文治の話を聞いた姫子は、身近の人を「狸」「狐」に当てはめてみることに。 「狸」にしても「狐」にしても、あまり良いイメージはないんじゃないかしら…と、本記事の筆者は思わず考えてしまったわけですが、姫子の想像はとても可愛らしいものです。 姫子の中では、愛嬌のある「狸」と色っぽい「狐」というイメージなのでしょうね。 文治が職場で言われたという「狐」の例えは、褒め言葉でなかった可能性が高いと思いますが、姫子との触れ合いのおかげで、柔らかい話題になったのかなと思わずにはいられません。 姫子が名古屋に来て、二ヶ月が経っていました。 姫子の隣の席に座っている野々目は、勉強が苦手かつざっくばらんとした性格で、真面目すぎる姫子とは違って、良い意味で気の抜けた少女でした。 しかし、どこにでも嫌みったらしい人間はいるもので…休み時間、姫子の元には取り巻きを連れた華やかな少女、鬼頭(きとう)リンが嫌味を言いに来ます。 東京から名古屋に越してきた姫子のことを、リンは「都落ち」と嘲りますが、姫子にはちょっと思うところがありました。 今まで描かれなかった、尋常小学校での姫子の様子が描かれた第二十話。 リンは姫子が来るまで、学校一裕福な家の娘として地位を作ってきたようでした。 第二十話のラストで、姫子は学友の野々目とリンを自宅へ招いておりました。 かくなる上は自分の格のほうが上だと証明してやると息巻くリンですが、花塚邸の美人揃いの女中陣を前にひるみ、おまけに本日のイベントが芋掘りと知って、愕然としました。 おまけにそこへ、いつもどおり文治がやってきます。 どう見てもオジサンかつ胡散臭い文治に対し、リンは警戒心剥き出しです。 大人で軍人で将校(いわば軍の幹部ですね)で、顔は怖いしくまも酷い。 そういうリンに、姫子も素敵大好き文治さま節で応戦します。 別れ際、文治にも自分と姫子の関係は他言無用と口止めされます。 そして、あんなに警戒していたにもかかわらず、リンも最後は文治の大人の包容力と色気に赤面してしまいます。 第七話で部下に名古屋の観光名所を聞いて回っていた文治のフラグが、ようやく回収されるときがきました。 文治に名古屋観光へ誘われた姫子は、いわば「初デート」に心が浮き立ちます。 といっても、当日は名古屋出身の女中コンビ・星子&月子がお付きですが、それはそれ。 少しでも文治に相応しいような、大人っぽい格好がしたい!と、奮闘する姫子ですが、古今東西デート前の女子というのは、服屋でも開くのかといわんばかりに箪笥を引っくり返すのが世の常です。 例に洩れず、コーディネートで悩む姫子に、母・瑞子(みずこ)がしたアドバイスは、いっそ洋装にしたらどうかというものでした。 なんとなく、帝都というか東京での暮らしに翳りがある花塚親子。 しかし、お似合いだからこその波乱が次の話では待ち受けているのでした。 珍しく二話続いたエピソード。 お洒落なカフェー(原作表記に合わせております)で過ごす、優雅な昼食。 しかし、どこへ行っても言われるのは「お父さまとお出かけ」という言葉ばかりで……。 楽しい気持ちと、慣れない洋装に苦労する場面が相反するデート編。 というのも姫子が本当に辛かったのは、靴擦れではなく自分が幼いせいで、文治とは親子にしか見えないことでした。 しかし、姫子は文治を慕う自分の気持ちは変わらないだろうなと思いました。 姫子が見ていた、大人っぽいクリームを別れ際にそっと渡してくれる文治…。 ある日、文治はプレイボーイ風の部下・寿(ことぶき)中尉と昼食を共にしていました。 寿中尉が文治を昼食に誘い出したには、理由がありました。 寿中尉は華族の子息ということもあって特に耳ざといようですが、放っておくには少々下世話すぎるこの噂を流していたのは、鉄 一鉄(くろがねいってつ)という軍曹でした。 古傷だらけの身体に乱暴者で権力嫌い、という様相の鉄軍曹は、文治の失脚を狙っているようです。 文治は寿中尉の協力も得て、鉄の恐喝を一蹴しますが、彼が今後、何かしらの火種になっていくことは間違いなさそうです。 目白を捕まえるべく、落とし籠を設置した姫子と文治。 「目白は夫婦愛が強く一生涯同じ相手と番うそうです」と優しく姫子に教える文治の姿は、前話から踏まえてみると、少し思うところがあるようにも見えます。 姫子の提案で捕まえた目白はすぐに逃がされましたが、姫子は姫子で、自分の考えを尊重してくれた上で、目白についての知識もあわせて教えてくれた文治のことを「優しい」と評しました。 しかし文治には、姫子が目白を逃がしてやったように、姫子を逃がしてやることができなくて…? 婚姻を決めた敬二郎だけでなく、文治までも姫子に負い目を感じていることが、この話で判明しました。 ですが、姫子にしてみれば文治に捕らえられたという認識はなく、文治のことを自分にとって「戻る場所」だと考えていました。 姫子が苦しいと思うほどに、それでも文治からすればまだまだ力を込めていないと思う加減で抱き締め合う二人の姿は、誰が見ても親子なんかではないでしょう。 まずは、サイトをチラッと覗いてみるのもオススメですよ~! 姫子の祖父。 尋常小学校に通う、姫子の学友。 リンとはご近所さんという間柄で、彼女に制裁を加えることも。 以前は尋常小学校一のお金持ちのお嬢さんとして、カーストトップを誇っていた女の子です。 姫子に対抗心を燃やし、姫子の恋心に唯一勘づいた同級生でもあります。 文治を敵対視する軍曹。 十八歳という歳の差、という面がクローズアップされた第三集。 文治は歳の差や他人からの見え方について嘆く姫子に、金鯱城を例えにして「人の評価など場所や時代で変わるものです」と語りました。 さて、ここで気になるのは本当に評価が変わるのか、という点ですね。 たしかに姫子が成長すれば、文治と並んでも二人を親子と考える人は減るでしょう。 いわば、鉄のような見方をする人間のほうが多かろう、ということは想像に容易いわけですね。 そして、文治が現在男盛りを迎えているように、姫子もこれからどんどん魅力的な大人の女性へと成長していくでしょう。 そうなったとき、世間はどう見るか、そして文治からはそうなっても姫子のことを手放せない、という今後すれ違いの元となりそうな危うさが第三集では示唆されたのではないかと、本記事筆者は考えます。 二人の関係性を、傍目から見た場合なども含めて掘り下げた第三集。 穏やかな日常の中で、確かにお互いの間で育まれる愛。 ですが、文治が姫子を大切に想うからこそ複雑な気持ちを抱いてしまっていること、姫子が生半可なことでは揺るがないほど強く、文治のことを想っていることも掘り下げられ、より二人の今後の展開が気になる仕掛けを施された巻になったのではないでしょうか。 といった方は、まず電子書籍などで第三集まで追ってみるのも、いいかもしれません。 ーーー【U-NEXTの特徴】ーーー ・U-NEXTは国内最大級の動画配信サービス『煙と蜜』3巻ネタバレ解説
第十八話 歩と金
敬二郎は姫子の祖父であり、姫子の母の父です。
将棋でも一点突破型の敬二郎は、文治に敗北してしまったようです。
そんな敬二郎にも得られなかったものが「爵位」です。
「爵位」ほしさに、敬二郎は姫子と文治の婚姻を企てたのです。
二人の婚姻を決めたのは敬二郎ですが、本当は誰よりも二人の歳の差を気にしていたのでしょう。
喰えない男といわれる文治ですが、あながち口先だけじゃないのでは…!?と読者に期待を持たせる暖かい眼差しが印象的でした。第十九話 狸と狐
というのも、職場で文治自身が「狐」に例えられ、そこからの連想だったようです。
新しい遊びに、思わずくすりと笑いがこぼれてしまいます。
文治自身は「狸」が好きで、化かされるなら「狸」がいいと語りました。
「狸」に例えられた姫子からしたら、ドキッとするのも仕方のない話です。
おまけに、文治の「長年人に愛され 寄り添って生きるたくましさ」という「狸」観が素敵でした。第二十話 傘と明日
物語開始当時は、まだまだ同級生の名前を覚えるので精一杯と言っていた姫子にも無事、野々目ののという学友ができたようです。
そして、帰る頃には空は雨模様になっており…?
野々目ののと鬼頭リンという色濃い新キャラを迎え、姫子の周りも賑やかになっていきます。
目鼻立ちも美人で、わかりやすくツンデレ意地っ張りタイプの美少女感があります。
一方で野々目は茶目っ気たっぷりで、こちらも魅力的!第二十一話 羨望と秘密
姫子のことを一方的にライバル視しているリンは乗り気ではありませんでしたが、花塚家に傘を借りた恩を家族に知られ、菓子折まで持たされています。
怖面の将校を前に、野々目とリンは恐縮しますが、姫子が文治のことを「許嫁さまです」と紹介し、さらに驚いてしまいました。
このときのリンのモノローグは、ぶっちゃけ共感する読者多そうだ…。
あんなおじさんが許嫁だなんて、花塚さんも大変ね。
「好きなんだ あの人の事」と、あっさり看破された上に「でもそれって一方的なんじゃありません?」と姫子の核心をつくリン。
少女達から見たら「おじさん」の自分と許嫁となると、姫子の外聞が悪くなるのでは、と文治は文治で気にしていたのでした。
わかる、わかるぞその気持ち…。第二十二話 支度と廻転
なんてったって、いつも夕飯時にしか来ない文治と、朝から晩まで一日ずっと一緒にいられるのですから!
名古屋観光の日を心待ちにする姫子ですが、その心にはリンの言葉が引っかかっていたのでした。
それはさておき、今回は文治も軍服を脱いだ紳士的な装いで登場します。
洋装の姫子と並ぶと、まさにお似合い!第二十三話 栄華なる都市と悠久なる願い
本記事筆者が勝手に名付けるならば、ずばり「名古屋で大正ロマン初デート」編です。
姫子は今回のお出かけで、大人っぽく振る舞って、密かに文治に少しでも好きになってもらおうと決意しておりました。
名古屋の情報も満載で、見応え十分な回になっています。
革靴で酷い靴擦れをしてしまった姫子の我慢強さと健気さには、きゅうっと胸を締めつけられること間違いなし!
足の痛みよりも心の痛みで泣く姫子に、文治は新兵たちに勧められた金鯱城を見せて「人の評価など場所や時代で変わるものです」と語りかけます。
何故かって、甘くほろ苦い思い出になったであろう初デートでも、文治のスマートさが光ったからです。
こ、こんなん惚れてまう…!第二十四話 寿と鉄
食べていたのは、先日の名古屋観光時に気に入ったらしい味噌煮込みうどんです。
濃厚な赤味噌に絡む、硬すぎるほどの麺は現代でも有名な名古屋の名物ですね。
というのも、先日の名古屋観光もとい姫子とのデート場面を目撃した何者かが「土屋少佐は子供に手をつける男だ」と言いふらしていたのです。
普段人を見下している人間が自分の言うことをきく、ということに快楽を覚えるタイプの人間らしい鉄軍曹には、何かしら卑屈になる原因がありそうでした。第二十五話 籠と抱擁
たまたま冬物を出しているときに納屋で発見した籠を使ってみよう、という考えだったようですが、中には見事目白が入ってくれました。
どうりで姫子の学友にも自分との関係を内緒にしてくれと頼んだり、鉄を厳しく粛正したわけです。
歳の差をおかしく見る周囲の目に、気をすり減らしていたのは姫子だけではなく、文治も同様だったとわかる第二十五話は、お互いへの思いの深さがわかる回にもなっていたと思います。
登場人物紹介
花塚敬二郎(はなづかけいじろう)
旧幕時代の名主の次男坊として生を受け、商家に養子に出された過去を持っているようです。
現在は名古屋を拠点に、生糸・陶磁器・小麦の工場を経営する富豪で、姫子と文治の婚姻によって、爵位を手に入れることを目論んでいるようですが…?野々目のの(ののめのの)
勉強があまり得意ではなく、修身や地理といった授業では居眠りしてしまいがちです。鬼頭リン(きとうりん)
お上品を気取っておりますが、焦るとゴリゴリの名古屋弁が飛び出し、芋掘りが得意な一面なども…。鉄一鉄(くろがねいってつ)
粗野で権力に逆らいたがる荒くれ者、といった風体ですが、静岡には年の離れた妹を残してきており、毎月送金する妹思いな男という顔もあります。筆者の考察…今後、歳の差を理由に二人の愛が阻まれる可能性は出てくるのか?
姫子は学友から、文治は部下からそれぞれ突かれています。
要するに、今は不格好に見える自分たちも、姫子がこの先成長してしまえば見え方は変わっていくのだと弁明してくれたのです。
しかし、歳の差がなくなるわけではなく、今にしても未来にしても、奇異な目で見られるのは、幼妻を連れた文治のほうです。
現に、大人と子供で連れ立っていて恋人同士ですといわれれば、世間的にはより判断力のある年上のほうに非難が向かいます。まとめ
第一集、第二集を読んできた人でも、正直賛否両論わかれるような、今回は心をざわつかせる内容でした。
しかしながら、姫子と文治が想い合うほど、周囲の目は優しくないことが如実に描かれ、いかに大正とはいえ、十八歳差の婚姻という異常さが際立ちます。
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