2018年カンヌ国際映画祭で最高賞のパルムドール賞を受賞した映画『万引き家族』。日本でもかなり話題になりましたが、もう見ましたか?
血の繋がらない家族が集まって「家族」として過ごしていく話なんですが、観た後は必ずこう思います。「家族」って何?「血のつながりってそんなに大事」?
そして私は更にこう思います。結局彼らが盗んだのって、「物」だけじゃなかったのでは?と。
この記事では、「なんとか賞」が大好き映画マニアの私が、映画『万引き家族』で「彼らが盗んだもの」について考察してみたいと思います。
※本記事には一部ネタバレも含まれますのでご注意ください。
出典:映画.com
簡単なあらすじ
「万引き」をしながら暮らす「柴田家」。
場面は、「父親」が「息子」の祥太に万引きをさせる場面で始まり、あえて何の予備知識も入れずに観はじめた私は、彼らが本物の「親子」だと思いこんでいます。
しかし、夜中に寒空の下で残された幼いジュリを、ネコを拾うように連れて帰ってくるこの「親子」を見て、この家族は何かがおかしいと疑い始める私。
そしてだんだんと、この家族の全員が血のつながらない、寄り集まった疑似家族だと気づき始めます。
その後、彼らがなぜこの「柴田家」に集まったのか、それぞれの衝撃の境遇が明かされていきます。
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目次
「柴田家」のキャスト:それぞれのいきさつと名前の意味
出典:映画.com
「柴田家」は、それぞれが偽名を使って、家族になりきっています。
決して聖人君主のような「善人」で成り立っているわけではないけど(むしろ犯罪者)、とっても温かみがあって、これこそ「家庭」と呼ぶにふさわしい。
そんな「家族」のそれぞれの偽名の意味とお互いの関係、境遇などを考察してみたいと思います。
父:治(本名:榎 勝太)
「父親」の治(おさむ)を演じるのは、リリー・フランキー。
この人、本当にこういう、一見みすぼらしくてしょぼいおじさんを演じるのがすごくお似合いですよね(褒めてます)。
以前の同監督の作品、『そして父になる』(2013)でも、しょぼくれた冴えない、けど温かみのあるオッサンを演じていました。
作中では、拾ってきた「息子」に自分の本名を付けています。それは、息子の祥太に自分の幼いころの姿を重ねていたからだと思います。
祥太をかわいがることで、自分が幼いころに満たされなかった愛情を埋めているようにも見えます。
ちょっと客観的にみると気持ち悪いんですが、気持ちがわからなくもない。なんだか同情してしまいます。
個人的にこの映画の一番の見どころは、何度かちらつくリリー・フランキーの生お尻かもしれません(そこか)。
母:信代(本名:田辺 由布子)
信代(のぶよ)は以前結婚していました。しかし夫がDV男だったため、当時信代が勤めていた店の常連だった治と殺害を企てました。
この事件は正当防衛とされ、罪をかぶった治は執行猶予がついたのでした。
その後2人は一緒になり、初枝おばあちゃんと出会って一緒に住み始めたのです。
この信代を演じるのは、安藤サクラ。私の大好きな女優さんの一人です。
彼女は本当に演技がうますぎて、鳥肌が立つほどです。特に、最後の泣くシーンは、是枝監督も大絶賛だったとか。
更に、カンヌ映画祭の審査員だったケート・ブランシェットも、彼女の泣くシーンを褒めまくっていたそうです。
自然にツーっと流れる涙に、やり場のない思いが「手」の動きによって表現されているこの「安藤泣き」。特許取れそう。ぜひ見てほしい一場面です。
また、リリー・フランキーとの濡れ場も押さえておく場面です(笑)。
祖母:初枝(樹木希林)
初枝には実の息子がいますが、彼とは疎遠になってしまっているという悲しい状況。
その後出会った榎勝田(リリー・フランキー)と田辺由布子(安藤サクラ)に、その息子夫婦の名前である治と信代という名前をつけたのです。
更に、亡くなった元夫は不倫相手と家庭を作って彼女のもとを去っていました。
つまり、夫からも息子からも捨てられた、何とも悲しーい寂しーいおばあちゃんなのです。
ああ辛い…。
初枝はその後亡くなりますが、信代によって庭に埋められるという衝撃の展開に。しかし信代は、そのあとの警察からの尋問でこのように発言しています。
「捨てたんじゃない。捨てられていたものを拾った。捨てた人は他にいるんじゃないですか?」
この言葉、ガツンと胸に響いて忘れられません。
まさに、「捨てた人」とは、皮肉にも初枝の実の家族だったということです。かわいそすぎます。
家族に見放されて静かに老いて死んでいく、それだけは絶対に避けたいと願う今日この頃。
ところで、初枝を演じた樹木希林さんは、『万引き家族』が公開された同年の2018年に亡くなられましたね。私も大好きな女優さんの一人なので、とても残念です。
長男:祥太(本名:不明)
祥太は、松戸のパチンコ店の車内でぐったりしていたところを、たまたま車上荒らしをしていた信代と治に拾われました。当時はまだ赤ん坊。
赤ん坊連れて帰るって…おいおい、って思いましたが、この夫婦には何の抵抗もないことなのでしょう。ほしい物は平気で盗むくらいですから。
まあ彼らによると誘拐ではなく、保護をしたという感覚のようなのですが。
しかしこれまでに、幼い子どもがパチンコ店の駐車場の車内で置き去りにされて死亡してしまうという、いたましい事件が何度かありましたね。
是枝監督は、こうした事件に問題提起をしたかったのでしょう。
最後に祥太が警察に捕まってしまったことで、柴田家は一気に解散してしまいます。ですが、祥太にとって治はずっと「父親」なんだと思います。
最後に祥太は「父ちゃん」と声にならない声を発していました。リリーの前では決して発しなかった言葉。彼に届いたんでしょうか。
祥太を演じるのは城桧吏という子役なんですが、めっちゃ可愛いです、この子。最近では「約束のネバーランド」実写版に出演するなど、売れっ子になってきましたね。
これからどんなイケメンに成長していくのか、完全に親目線なわたし(キラン)。
叔母:さやか(本名:亜紀)
家族の中では、信代の妹という設定。「さやか」という名前は、自分の実の妹の名前です。
この「さやか」を演じるのは、松岡茉優。この人の演技、とーっても自然で大好きです。「現代っ子」を演じさせたら右に出る人はいないんじゃないかってくらい。
本作品では、かなり体張ってます。まじか、って感じです。
衝撃すぎて、飲んでいいたビールを大事なPCにこぼしてしまうほどでした。
問題の(?)シーンは、さやかの働く風俗店にて。制服姿で股間を開き、腰を振ってその様子を客にガラス越しに見せるというもの。
もうすぐ年頃になろうとしている娘を持つ私としては、何か居心地悪い感じ…。
それはそうと、「さやか」は亜紀の妹の名前なんですが、なぜ彼女は妹の名前を名乗っていたのでしょう?
私は、優秀で両親の愛情を自分よりも受けていた妹に亜紀が嫉妬をしていたのだと思います。
「まじめな妹が実は風俗店で働くふしだらな女」
そんな風に、「さやか」になりきることで優越感を抱いていたんだと思います。女って怖い。
「さやか」と初枝の関係は? 松岡茉優演じる亜紀は、「祖母」の初枝とは血がつながっていないものの、全くの他人とは言えない関係にあります。 彼女は初枝の夫の不倫相手の孫なのです。(その事実を亜紀本人は知らなかったようですが。) そんな事情がありますが、「柴田家」では本物のおばあちゃんと孫のように、ほほえましい2人でした。
長女:リン(本名:ジュリ)
幼いリンは寒空の下、自宅の外で一人放置されているところを、治と祥太に拾われました。
そのあとリンを返しに行こうとすると、「生まなきゃよかった」という罵声がアパートから漏れてきます。
実は、リンの実の父親はDV男で、リンの母親に暴力をふるっており、その母親は娘のリンに暴力をふるっていました。リンは愛のない家庭に生まれてしまったのです。
それに気づいた信代が、自分と似ている境遇であるリンに親近感を覚え、実の母親のように接します。
信代がリンに与えた愛情は、本当の母そのものでした。
子どもは、どんなにお金がなくても、豪華な旅行や食事がなくても、愛情ある人が一緒にいてくれるだけで幸せなんですよね。
それは、極端な話、血のつながった母親でなくてもいいんだ、と思いました。
最後リンは、元のDVの家庭に返されてしまいます。「血のつながった母に育てられた方が子どもは幸せ」という理由で。
本当にそうなんでしょうか?血のつながりってそこまで重要なのかと怒りさえ覚えます。
リンは佐々木みゆという子役が演じています。とってもキュートでピュア。それだからゆえに、大人の黒い部分が余計に際立ちます。
ああ大人ってなんで身勝手なんでしょう。
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『万引き家族』の考察
出典:映画.com
『万引き家族』は様々な社会問題を描写していた
『万引き家族』は「万引き」というわかりやすい犯罪行為の裏に隠された、日本社会における様々な社会問題を描いています。
・貧困
・家庭内暴力(DV)
・ネグレクト
・若者の性問題
・老人の孤独死 などなど。
「柴田家」のひとりひとりは皆、社会からはみ出た、いわゆる「社会的弱者」ばかり。
そのそれぞれが「柴田家」を成すことで、「社会的弱者」ではない、「大きな存在」になったのです。
祥太が「スイミー」という児童書の話をする場面があります。
スイミーは小さい魚だけど、他の小さな魚たちと群れを成して大きくなり、大きな魚に立ち向かう、という話です。
「柴田家」のひとりひとりは小さくて弱いけれど、みんな集まって一つになれば、大きな魚(社会)に立ち向かうことができる、というメッセージだと思います。
これこそが「本物の家族」の条件なのでしょう。
「4番さん」の存在
「さやか」こと亜紀が勤める風俗店の「4番さん」と呼ばれる客。演じるのは俳優の池松壮亮です。
この映画では「名前(偽名)」が非常に重要なポイントですので、「4番さん」の本名はあえて明かされませんでした。
出演時間もそんなにないのですが、この存在感。すごく強烈なメッセージを感じます。
でも、この4番さんを登場させた監督の意図は何だったのでしょう?
実はその4番さんには発話障害があり、誰からも優しくされず、社会に見放され、居場所をなくしていました。
自分を傷つける行為までしてしまいます。
先程この映画が様々な社会問題を描写していると書きましたが、彼もまた「障害」という社会的に弱い立場の1人なんですね。
是枝監督が問題提起したかったことの1つなんだと思います。
このような社会的弱者はどこに行けばいいのか、と。
自分の姿に彼を重ねたのでしょう、亜紀はそんな4番さんに心を惹かれていきます。
先程のスイミーの話のように、1人じゃ何もできないけど、2人なら強くなれる。そんなことを感じました。
結局盗んだのは何か
『万引き家族』とは、「万引きをする家族」と、「盗まれた人で成り立っている家族」の二重の意味を含んでいるのだと考えます。
つまり、「物」を盗んだだけでなく「人」をも盗んだ家族という意味。
治も信代の夫から奪って一緒になっていますし、子どもたちの翔太やリンも、拾われてきた子ども。つまり他人から盗んできた子どもたちです。
現にこの映画のキャチコピーは「彼らが盗んだものは、絆でした。」となっています。
人を盗むことで、家族の絆を手に入れた、という意味なのでしょう。
「物」、「人」。そして私は、家族が盗んだものがもう一つあると思います。
それは、「名前」。本名です。
「柴田家」一家のみんなは、他の誰かの名前を盗むことで自分とは違う他の誰かになり、辛い現実から目を背けていました。
つまり、「柴田家」は本名(現実)から離れて自分の居場所を見つけられる夢のような場所だったのです。
しかし結局は、最後にそれぞれの「(辛い)現実」へと戻されてしまい、元の自分へ戻ることとなるのですが。
まとめ:ラストで伝えたかったこととは
出典:映画.com
最後にみんな元の場所、つまり「現実」に戻されてしまいますが、この戻された現実は、柴田家に出会う前の「現実」とは違うものとなっているはずです。
なぜなら、みんな「柴田家」の愛情に触れ、成長し、「人を愛することで得られる喜び」を知り、今まで見ていた世界を変えることができたからです。
特に子どもたちには、この「柴田家」の経験が大きな「希望」を与えました。
特にリン。
最初は、「柴田家」を体験したことが本当にいいことだったのか、むしろ残酷だったのではないか、とも思いました。
知らない方が幸せってありますよね。
私もつらい時に、楽しくバカンスに出てる人の話とか聞きたくないし。
でもやっぱり、「柴田家」に出会えたことはリンにとって幸せなことだったのだと思います。
だって、リンは柴田家のおかげで希望を持つことができたのですから。
子どものときの自分の置かれた境遇は変えることはできないけれど、希望を持つことで辛い状況も乗り越えていける。
いつか、また柴田家に出会えるかもしれない。またどこかでいい家族に巡り合えるかもしれない。そんな希望を抱きながら、絶望することなく強く生きてほしいと思いました。
昨今、家族の形態は多様化しています。だから、「血のつながりだけがすべてじゃないよ。そこにこだわらなくてもいいんだよ」ってことなんだと思います。
「家族の絆」をテーマに色々なことを考えさせられる映画『万引き家族』。
何だか真面目な話になってしまいましたが、映画は重たすぎず、つらすぎず、笑いありの楽しめるものなので、ぜひ観てみてください。
ちなみに、濡れ場や風俗シーンが結構リアルですので、お茶の間で家族と一緒に見ないようにしましょう。笑
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