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不倫相手の秋山丈博との間に子供を身籠った野々宮希和子だが、彼の意向で堕ろすことになりそれをきっかけに子供が産めない体になる。
希和子は丈博の妻、恵津子に「夫を返せ」、「空っぽのがらんどう」と罵られ身も心もダメージを受けていた。
丈博と恵津子の子供を奪い、薫と名付け我が子のように愛し育てた野々宮希和子。しかし希和の逃亡は続かず捕まってしまう。
法廷で、恵津子は「希和子は恵理奈の体だけではなく心も奪った」と怒りながら供述。
希和子は「4年間子育てをする喜びを与えてくれた秋山夫妻には感謝致します」と反省の様子はなかった。
一方で、大学生になった恵理奈(薫)も心に大きな傷を負ったまま生きていた。不倫相手との子供を授かった恵理奈はどう決断するのか。
映画、ドラマ、小説とそれぞれエンディングが異なるところもすごく興味深い作品です。最後のまとめでそれぞれの違いをご紹介いたします。
この作品は、「母性」とは何かを深く考えさせられます。女性はもちろんのこと、ぜひ男性にも見ていただきたい作品です。
以下よりネタバレを含みます。嫌いな方は見ないようにお願いします。
目次
1.事件の始まり
雨が降る中、野々宮希和子は傘を差し不倫相手の秋山夫妻の家を見つめていた。
二人が外出したのを見計らい、秋山夫妻の自宅に侵入する希和子。そこには、愛していた秋山と妻、恵津子の子供がいた。
置いていかれた子供は泣き叫んでいる。子供と目が合うと、その子供は希和子ににっこり微笑んだ。
「この子は私の全てを許してくれている」と感じた希和子は子供を抱き抱え、薫と名付け友人宅へ助けを求め逃亡する。
「助けて欲しい」希和子は友人にそう言い匿ってもらうも、そこにも居られなくなり離れることを決意。
逃亡中、泣き叫ぶ薫に母乳をあげようとするが出るはずもなく、どのように子育をしていいのか分からなくなり憔悴しきってしまう希和子。
そんなとき、エンゼルホームというカルト団体にで会うのだった。
2.エンゼルホーム
希和子は、新しい名前と誕生日を貰いエンゼルホームの一員となった。
エンゼルホームで沢田久美と出会う。
久美には、お金が無く裁判に負け息子の親権がとれなかった過去があった。
その悲しみも捨てなさいとの教えに久美は「そんなのなかなかできひんよなぁ。」と希和子には胸の内を明かしていた。
そんなある日、警察がエンゼルホームを調べることになる。もうここには居られなくなった希和子は急いで出て行くことになった。
薫ちゃんを離したらダメだと久美は希和子にお金と実家の住所を記した紙を渡す。
エンゼルホームの目的は純粋培養で、男を知らない天使(女の子)たちであった。つまりエンゼルホームで隔離し成育していくことだった。
サリン事件があり、カルトは危ないとマスコミに叩かれ、エンゼルホームもまた解散を迫られたのであった。
3.逃亡劇の終わり
久美の実家で住み込みで働くことになった希和子。男と女も分からない薫に色んなものを見よう、ずっと一緒にいようと約束を交わします。
小豆島の子供達と一緒にすくすくと成長する薫。仕事も板についてきた希和子。順風満帆に生活していく二人であった。
島の虫送りという祭りに初めて参加した二人。そこには大勢のメディアやアマチュアカメラマンが撮影に来ていた。
松明に火を灯し、棚田を下っている二人をカメラマンが撮影。その写真が全国コンテストで佳作に選ばれ全国の新聞に載ってしまう。
もうこの島にはいられないと察した希和子は、タキ写真館へ家族写真を撮りにいく。涙を必死に堪え写真を撮ってもらう。
ここに居ては見つかってしまうと思った希和子だが、薫は引っ越すことを拒否した。そのため動物園に行こうと嘘の提案をするのであった。
動物園へ行くと思い薫は元気よくフェリー乗り場へ行く。薫のうしろ姿に希和子は瞳に涙を溜め「ママもう追いつけないよ。」と呟いた。
夕飯も食べずに家を出たので売店で軽食を買い薫と手を繋ぎ急いでフェリー乗り場へ向かう。
だがそこには警察がすでに到着していた。
全てを悟った希和子は薫に「先に行って、ママもすぐ行くから。」と涙を流しながら言う。薫は保護され、希和子は誘拐罪で逮捕された。
女性警察官はお家に帰りましょうと薫を抱き上げる。希和子を母だと思っている薫は、「ママ、どこ行くん」と泣き叫ぶ。
連行される希和子もまた、涙を流しながら警察に「この子はまだご飯を食べていません。よろしくお願いします。」と叫び、深く頭を下げた。
4.恵理奈
大学生になった恵理奈。バイトを掛け持ちし、一人暮らしを始めていた。恵理奈も岸田孝史という男と不倫していた。
仕事を終え、帰宅しようとする恵理奈の前に安藤千草という女が現れる。千草は恵理奈の過去の誘拐事件を記事にしたいと言った。
あまり覚えてないと千草をあしらうが、資料を強引に押し付けられ自宅で1人資料を見るが、過去を思い出し資料を読むのをやめてしまう。
ある日、岸田が恵理奈の仕事を終えるのを待っている一方で、千草も恵理奈の仕事が終わるのを待っていた。
「友達と約束してるから」と恵理奈は岸田の誘いを断る。千草の提案で酒を飲みに公園へむかう。酒が足りず、恵理奈の自宅で飲み直すことに。
夜が明けた頃、勝手に冷蔵庫を開け食べ物を探す図々しい千草。その物音で恵理奈も目を覚まし、朝食を食べながら唐突に取材が始まった。
家を抜け出し交番に助けを求めに行ったり、希和子の方言が染み付いていたり、お星様の歌をリクエストするも望む歌じゃなかったり…
そんな娘に恵津子も苛立ち、強く責め立ててしまう。恵理奈は自分が母親を苦しめてると思ってしまうのであった。
「本当のお母さんが誰なのか理解するのに時間が掛かった。母親も困ってんじゃないかな。私がいると事件のこと思い出すみたいで。」と恵理奈は語る。
「なんで?あんたは悪いことしてないじゃん。」と千草は純粋に答える。この言葉に恵理奈は微かに救われた表情を浮かべる。
5.恵理奈の決意
恵理奈は千草を学校の食堂に呼び出し、岸田との間に子供が出来たかもしれないと相談する。恵理奈には相談相手がいなかった。
夜の公園で酒を飲みながら「蝉は地上に出てきて七日で死ぬって知った時びっくりしなかった?」と千草は恵理奈に尋ねる。
「他のどの蝉も七日で死んじゃうなら別に寂しくない。でももし、八日目の蝉がいたら他の皆が死んじゃって、その方が寂しい」と答える。
恵理奈は妊娠検査キットを事前に購入しており、検査をした。酒に酔っていればどんな結果でも動揺せずに済むと考えていた。千草は検査キットの使い方を教え、心配そうに見守る。恵理奈は子供を授かっていた。
後日、恵理奈は岸田と会い「もし子供ができたらどうする?」と問いかける。岸田は「今は厳しいけど産んで欲しいよ。」と答えるのだった。その返答に恵理奈は「岸田さんは私に沢山の初めてをくれた。ありがとう。」と言い、もう岸田とは会わないことを決断する。
恵理奈と千草が自宅で夕飯の準備をしるとき恵理奈は希和子に全てをめちゃくちゃにされたと希和子を恨んでいると胸の内を明かす。千草もまたエンゼルホームで育っていた。絵里奈は二人が兄弟の様に育ったことを初めて知ったのだった。
シングルマザーになる決意をした恵理奈は、両親に子供ができた報告と子供を産むための金銭援助を頼み込みに行くことに。
相手は家庭があるお父さんみたいな人だと伝える。母親は子どもを堕ろしなさいと叱咤する。恵理奈は「お母さんあの人に何て言ったの?」
「堕すなんて信じられない、空っぽのがらんどうって言ったんでしょ」と反抗し、「あたし産むよ、人の子供を誘拐したりしないで済む様に」
恵津子は恵理奈が過去を忘れてくれないことにヒステリックになり、包丁を持ち出し恵理奈に突きつける。
「どうしたらいい?恵理奈ちゃんに好かれたいの」と胸の内を明かしたのだった。
6.恵理奈と千草の過去、そしてこれから
恵理奈は千草が提案した取材旅行に一緒に行くことにした。エンゼルホームが何だったのかを知るのであった。
ホテルに泊まる二人。恵理奈は千草に希和子が現在どうしてるのかを尋ねるも、千草は現在の居所までは知らない。
恵理奈は母親合わせる気だと思い帰る支度をする。それを慌てて止めに入る千草。
「誘拐された子供は不倫して子供を作って、犯人と同じことしてるって。あの人と同じだと思われたくないから意地を張ってるってだけだって思ってるんでしょ?」と千草にあたる。
そんなこと思ってない千草はそれを主張するも激しく動揺してる恵理奈は聞く耳も持たず、聞き入れてくれない。
「子育てなんてできる訳ない。だって知らないもん。どんな風に可愛がってどんな風に叱ってどんな風に仲良くなっていいか分からない。」
「母親になんかなれない。」と恵理奈はすごい剣幕で心の内の全てを打ち明けた。
千草は「嫌なら記事は書かない。心配なら一緒に母親をやるから。」と励まし、自身もエンゼルホームで育ったことで苦しみがあることを打ち明けた。
男性と隔離され育った千草。今でも男性が怖くこの先ずっと1人で生きることへの恐怖や普通に育ててくれなかったことへの不満があった。
彼女も過去に悩み苦しんでいたことを知った恵理奈。今までになかった友情に似た感情を初めて体験した恵理奈は旅を続けることを決意。
旅先で、芝生の上に寝転ぶ二人。「前に蝉の話したよね。七日で死ぬより八日目の蝉の方が悲しいって。」と千草は言う。
「私もそう思ってたけど違うかもね。八日目の蝉はさ、他の蝉には見れなかった何かを見れるんだもん。もしかしたらそれがすごく綺麗な物かもしれないしね。」と続けて言った。
「そうかもね」と千草の言葉に答える恵理奈。恵理奈はどこか見覚えのある景色に過去を思いだす。徐々に希和子が憎い人から母へと変わっていく。
恵理奈はつわりが酷くなり、フェリー乗り場のベンチで休憩をとる。ここは過去に警察に保護された場所であった。
昔に希和子と引き離された場面を鮮明に思い出した恵理奈はタキ写真館へ走り出す。過去に写真を撮ったことを思い出したのだ。
写真はすでに希和子が持って行っていたのだが、写真を現像してもらうことができた。そこには確かに二人の姿が写されていた。
希和子から愛情を貰い、希和子と共に生き、希和子が母親であったことを恵理奈は痛感する。
外へ飛び出す恵理奈。千草は後から追う。
「なんでだろう、私、もうこの子が好きだ。」と恵理奈がお腹に手を当てながら言い、物語は終わりを迎える。
まとめと感想
とても深く考えさせられました。誘拐犯は確かに愛情を持って子育てをしていました。
世間的には誘拐は犯罪ですが、考えさせられる映画でした。
家庭を持つ人を愛してしまった希和子。一目だけ愛する人の子供を見たいという気持ちから誘拐事件へ発展してしまいました。
誘拐事件は解決しましたが皆が心に傷を負い、それぞれが懸命に生きていました。実の親の恵津子も、誘拐犯の希和子もそれぞれが母親でした。そして恵理奈もまた母親になる決意をしました。
母性というテーマが掲げられた本作品。母親とは何なのかを深く考えさせられました。
作品名である八日目の蝉のように他の誰かに見られなかった綺麗なものを恵理奈と千草は見つけられたのではないかと私は思います。恵理奈が千草に「母親のなんかなれない」と言うシーンは本当に胸をうたれました。
子供を授かった恵理奈が、旅をすることで愛されていた記憶を思い出し実感することができたことはとても意味のあることだったのだと思います。最後のお腹に手を当ててなくところも無償の愛なんだと思います。
全体的に暗いシーンが続き辛くなってしまいますが、そんな中でも育まれる愛情や友情がとても美しいものがありました。
作品中の希和子が薫に対する眼差しが優しいところも印象的で、無条件の愛とはこれだと思いました。
主な登場人物の紹介
秋山 恵理奈(野々宮 薫)
希和子に誘拐され育ててもらった恵理奈。過去の事件のせいで家族が壊れてしまい、希和子を恨んでいました。しかし、ライターの千草と出会い過去と向き合うことで希和子に愛されていたことを思い出します。
誘拐されたときにはわずか4歳で、本当の母親を理解することができなく苦しんでいたことなど、この事件の一番の被害者でとてもかわいそうでした。しかし、愛されていたことを知り前に向かう姿勢にとても感動しました。
野々宮 希和子
誘拐犯であり、世間的には犯罪者の希和子でしたが作品のなかで一番好きなキャラクターでした。薫に注ぐ無条件の愛が印象的で、ちゃんと母親でした。
最後、警察に居場所がばれ逮捕されてしまう際に薫のご飯の心配をするところにはなんとも言えない感情になり泣いてしまいました。
秋山 恵理子
少しヒステリック気味な女性という印象でした。事件後、子育てがうまくいかないところにとても苦しんだのではないでしょうか。
秋山 文博
一番嫌いなキャラクターです。そもそもの原因はお前だろと怒鳴りたくなるくらいでした。不倫という軽率な行動でこんなにも苦しむ人がいること、最悪の場合事件になりうることがあるということを改めて思い知らされました。
安藤 千草
ライターを仕事にしている女性。最初の方は挙動がおかしく少しイラつくところもありました。しかし、彼女の過去をしると納得でき、彼女もまた苦しんでいたのかと思うととても辛い。
恵理奈と旅をし、だんだん仲良くなったり彼女を心の底から救いたいという想いや行動は本当に素晴らしかったです。
エンディングの違い
①原作小説 小豆島行きのフェーリーで恵理奈と希和子がすれ違うが、お互いに気づくことはなかった。また、小豆島へ渡るところで物語は終わり二人で島を巡るところは書かれていません。
②テレビドラマ 希和子が出所後に港のコーヒーショップで働いており、そこに恵理奈が偶然訪れる。店を出た恵理奈を希和子は追い、「薫」と呼びます。恵理奈は立ち止まりますが、振り返りはせず歩みだします。
興味がある方は原作とテレビ版も見てみるといいと思います。映画とは違う受け取り方ができるかと思います。
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