母親を亡くし、父も不在。蓮はやけになり親類の元から逃げ出すように街をさまよう。その時、フードをかぶった熊鉄というバケモノに会う。弟子にするからついてこいと言われ好奇心に動かされるようについて行く。
見知らぬ土地「渋天街」へと行き着いていた。そこで蓮は熊鉄と暮らし始める。この作品はバケモノと少年の師弟の話である。
※)作品内容のネタバレを含みます。お気をつけください。
登場人物
蓮(レン)/九太(キュウタ)
9歳の時に母親が亡くなり、離婚していた為父親の消息が掴めず孤独の身になる。周囲の親戚の元に行くことを拒みひとりで生きていくことを決め街を彷徨うことに。
街で出会った熊鉄についていき、自然と共に暮らすようになる。本名を隠し年齢から九太と名付けられる。
物事の覚えがよく、自分で物事を考えられ自分の意思をまっすぐに出せる人物。成長するにつれ、興味の幅が増え探究心が強くなる。しかし、その探究心から自分の気持ちのあり方に困惑し迷走していく。
熊鉄(クマテツ)
渋天街の有名人の一人で、口が悪くだらしがない。雑な人物であるがその強さには確かなものがある。人間の街で蓮と出会い、蓮に見どころを感じ弟子になるならついてこいとほのめかす。
天涯孤独一人で生きて強くなったために相手のことを考えられず、師匠として蓮とどう接して教えていくかを悩みながら熊鉄自身も成長していく。
猪王山(イオウゼン)
熊鉄同様、有名人で熊鉄とは違い礼儀正しく、丁寧な物腰を持つ。その強さは皆も知るところで獣天街のバケモノ達の憧れの的となっている。二郎丸、一郎彦の息子二人もいる。熊鉄に対しては一目を置いているのか対等に話をしている。
二郎丸(ジロウマル)
猪王山の息子の1人、純粋に強さに憧れている。強い父親を尊敬し、最初弱かった蓮に対しても成長する蓮の強さを感じ友人となる。
一郎彦(イチロウヒコ)
猪王山の息子の1人、二郎丸同様父に憧れ父のように強くなることを目指している。しかし、二郎丸ほど純粋な強さに対する憧れではなかった。成長するにつれ猪王山と自分の違いに悩み、父に対する憧れと負い目になり人間である蓮に自分の不満の矛先を向け、闇を抱えていく。
百秋坊(ヒャクシュウボウ)
熊鉄と蓮を見守るバケモノでお坊さんの格好をしている。蓮の相談相手になることもしばしば。
多々良(タタラ)
百秋坊同様、熊鉄と蓮を見守るが、多々良は蓮のことを邪魔者扱いをしていたが次第に蓮を認め始める。熊鉄の相談、愚痴を聞いてやっている。
楓(カエデ)
蓮が渋谷に戻った際に図書館で出会った少女で、同年代の不良に絡まれている所を助け知り合う。小学校で勉強が止まっていることを打ち明けると、楓は自分が勉強を教えると進んで蓮に様々なことをおしえていく。
あらすじ
出会い
蓮は都会の真ん中にいた。周囲にはたくさんの人が歩き回っている。蓮は母親に死なれ、父親は離婚して行方知れず、親戚の世話になることを嫌がり蓮は一人で生きて行くことを決める。
蓮は街の路地裏で不思議な生物チコと出会う。そして全身を覆い隠すような格好の大柄の男と出会う、それは人間の顔ではなく蓮にはバケモノと例えるしかなかった。逃げた先で警官に捕まり家に連れ戻されそうになるが必死に抵抗し再び逃げ出す。路地裏に入ると普段の街並みとは違う道に出る。
渋天街
細い道を抜けると、そこは渋谷とは別の賑わいに溢れた場所だった。
親切そうなお坊さん百秋坊と出会いに街の説明をされる、街中であった大柄な男熊鉄は乱暴な様子で蓮を弟子に取ると宣言する。
熊鉄について行くとまっとうな説明もなく名前をきかれても警戒心から答えず、歳を聞かれ9歳と応えると熊鉄は蓮を「九太」と名付け寝てしまうのだった。
熊鉄
乱暴な熊鉄と口喧嘩から街に出る、街の様子を伺いながら熊鉄から隠れていると猪王山が現れ、熊鉄と世間話をし出す。
その中で子供を弟子にしたと熊鉄から聞き猪王山なりのアドバイスをするがその子供が人間であることを聞き猪王山はすぐに人間の子供を元の世界に戻すように説得するが言い合いになり私闘が始まる。
バケモノ同士の戦い
熊鉄と猪王山の戦いは終始、猪王山が冷静に熊鉄の様子を見ながら優位に立つが、熊鉄の怪力には圧倒されているようだった。力比べに押され始めると周囲は猪王山の応援をしだす。
その場にいる誰も熊鉄の応援をしようとはしなかった。熊鉄が1人だと知ると蓮は我慢が出来ず「負けるな‼︎」と大きく叫ぶのだった。
弟子とは
弟子として教えを受けることにした蓮は、熊鉄から剣の振り方をおそわるも初めてで要領を得ずうまくいかない。熊鉄がしぶしぶ自分なりに教えようとするが、全く伝えられずに苛立ちその場を去ってしまう。
弟子として熊鉄の身の回りの世話をし始める。そんな中「宗師」から各所の賢者と呼ばれる者達への紹介状をわたされ諸国を回る旅をしろと言われる。
旅の中で蓮は熊鉄の「意味は自分で考える」という言葉に、熊鉄は多々良から「ガキの頃自分がどうして欲しかったのかを考えろ」と言われお互いに相手を考えるきっかけが生まれるのだった。
進展
旅から帰ってきてから蓮はどうすればいいのかを考え続けた。悩みながらチコの真似をしてチコをからかう事がきっかけで解決策を思いつく。
今は亡き母が教えてくれるような錯覚と共に「なりきる、なったつもりで」と思いつく。それから蓮は、バレバレだが熊鉄に気づかれないように熊鉄の真似をしだす。
補う
熊鉄を真似する日が続く中、家事をしながら外にいる熊鉄の足音に自然に体が動いていた。蓮は見ていないのに熊鉄の動きが分かることに自ら驚きながら実際に立ち合えるか試すことに。
蓮は熊鉄の動きを先読みし、熊鉄の動きを制することに成功する。蓮は熊鉄に相手に合わせる方法をそのかわり熊鉄から剣の振り方や素手での戦い方を教えてもらうように相談する。
稽古
そして2人は、互いの足りないところを補うように共に教え合い稽古を重ねて行く。そして、8年の歳月が経った。
元の世界へ
蓮は朝ごはんを食べながら、熊鉄といつものやり取りの口喧嘩をしている。仲裁に入る百秋坊に構うことなく、2人は言い合いを続ける。蓮はいち早くご飯を済ませ、洗い物当番を熊鉄に押し付けて飛び出してしまう。
熊鉄から逃げる蓮は、逃げた先で渋天街から人間の世界に通じる通路を見つける。蓮は自分がいた元の世界へと戻戻れるようになる。
出会い
蓮は周囲を見回しながら、図書館に来て一冊の本を手に取る。しかし、文字の読み書きは小学生で知識が止まってしまっている。蓮は読めない字を周囲にいた1人の女性に聞くのだった。女性は蓮を不思議そうに眺めていた。
暗くなって図書館から出てくる先ほどの女性が同じような服装の集団に襲われていた。蓮はその様子を目撃し、集団の男達に襲われるも鍛え続けた蓮の敵ではなく簡単に返り討ちにする。その様子を見て女性を襲っていた連中は逃げ出した。
女性は楓といい、話していくうちに蓮に色々なことを教えて行く。
楓との日々
新しい出会いは、蓮に様々な影響を及ぼして行く。大学に行くことを勧められる。その中で父の存在に行き着く。蓮は父親と再会した。父は母が亡くなったことを知らずにいたということを知った。
熊鉄と父親と
蓮は本当の父と熊鉄が頭の中から離れず自分ですらどうしていいかわからなくなっていった。混乱したなか楓と会い、混乱しているが少し冷静になることができた。そして再び渋天街に戻って行く。
二郎丸に誘われ家に着くと熊鉄と猪王山の「宗師」になるための試合があると聞かされる。二郎丸は蓮にどちらが勝っても友達だと言ってくれた。しかし、その反対に一郎彦は帰り際に蓮に一撃を喰らわせる。
うずくまる蓮の目に一郎彦の胸に自分が見た闇が見えた。
2人と1人
蓮が隠れて見守るなか試合は始まった。熊鉄は初めから自分の有利な力比べで猪王山を圧倒する。しかし、冷静な猪王山は一瞬の隙に一気に形勢逆転する。
見るだけでは耐えられなくなり蓮は、観客席から姿を現し熊鉄といつもの口喧嘩を始める。それをきっかけに、熊鉄は再び雄叫びとともに立ち上がる。すぐさま太刀を構え直す。
猪王山と打ち合って行く。その姿は蓮と稽古をしているかのような表情を見せる。蓮は、熊鉄に声を張り上げながら応援し、2人で闘うような様子をみせそして熊鉄が一瞬の隙をついて猪王山を倒した。
熊鉄は、蓮に近づき憎まれ口を互いに言い合いながらハイタッチを交わす。
闇は突然に
喜んだのもつかぬま、猪王山の太刀が一郎彦の手によって熊鉄を襲った。その光景に蓮は目の色を変えるほど怒りに飲み込まれ蓮の太刀が勝手に鞘から抜き放たれ一郎彦に一直線に向かって行く。
チコは咄嗟に蓮の鼻を噛み正気に戻す。一直線に向かった太刀は力なくその場に落ち一郎彦は闇とともにその場から消え、蓮は意識を失った。
一郎彦の真実と人間の闇
猪王山の口から一郎彦が人間であることと、人間の心には闇が宿りやすいことが告げられる。一郎彦が闇にの見込まれたままでは人間の世界、バケモノの世界どちらにも悪い影響が出てしまう。
蓮と一郎彦
人間の世界に向かった蓮はこの先自分がどうなるかわからない、楓に感謝と別れを伝えようとするが、楓は蓮のそばを離れようとはしないまま、一郎彦と遭遇する。
一郎彦は既に正気ではなく蓮を見つけると周囲にお構いなく襲いかかってきた。しかし、強大な闇の力を前にその場を逃げだす。なるべく人気のない場所に向かおうとする。
渋天街で熊鉄は重症の身体を引きずりながら、蓮を助けてやるために転生させろというのだった。
心の中の剣
人気のない場所に着いた途端、蓮の足元は水色に染まり、地中から強大な鯨が飛び上がる。追い詰められた蓮は自分の闇に一郎彦の闇を取り込み自害をしようと試みる。蓮の中に吸い込まれる一瞬、鯨と蓮の間に割り込むように大きな大太刀がオレンジ色の発光を帯び地面に突き刺さった。
どこからどもなく百秋坊と多々良の声が聞こえてきた、この大太刀が熊鉄であること、熊鉄が蓮の心の中の剣になると言ったことが伝えられる大太刀は蓮の中にゆっくりと入っていく。
熊鉄の気持ちを察し、今度は熊鉄が蓮の戦いを励まし支えとなる。蓮は一郎彦を打ち倒し、心に住む熊鉄に自分の行く末を見届けてもらうことにした。
そうして蓮は渋天街を出て人間の世界に戻り、父親とともに暮らし自分の人生を生きて行くのだった。
考察
今作品は2015年に公開されたアニメ映画で、細田守さんが監督された作品です。師匠と弟子、父親と息子と言った関係性が表現されたものとなっている。
熊鉄の行き場のない蓮に対して悪態を吐きながらも弟子としてそばに置くのも熊鉄自身が幼少期独りで生きてきたことが背景にある為、熊鉄自身がして欲しかったことの現れではないかと考えられる。
感想
「サマーウォーズ」、「おおかみこどもの雨と雪」などを手掛けた細田守監督の作品であることが面白い作品である期待を裏切らなかった。
細田さんの作品はどれも家族の形、人の関係性を強く表現している。しかし、人間関係を明るく爽やかな方向に表現しているのか、悲しみや怒りがメインのシーンでも作品に感情移入して見ることができる。見終わるとひとつの満足感を得られる作品でる。
まとめ
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