岡山県で活動する地下アイドルグループの「ChamJam」。そのメンバーである市井舞菜を溺愛し、自身の全てを捧げている「えりぴよ」。2人の関係やChamJamのアイドルとしての成長を描く漫画『推しが武道館いってくれたら死ぬ』のあらすじを、ネタバレを含みながら解説します。
『推しが武道館いってくれたら死ぬ』(通称『推し武道』)は、地方の地下アイドルを題材にした作品であるため、普段アイドルに興味がある人や詳しい人でないと理解できない内容かと思われるかもしれませんが、そんなことはありません。
アイドルとファンの交流がユーモラスに描かれているこの漫画は誰でも読みやすく、一度読むとハマること間違いありません。この作品をもっと色々な人に知ってほしいと思います。この記事を読むと、短時間で『推し武道』の見どころと面白さを理解していただけます。
目次
TO(トップオタク)えりぴよ
この漫画の主人公は、えりというフリーターの女性です。彼女はえりぴよという名前で、地元岡山県の地下アイドルグループ「ChamJam」を応援するオタク活動を行なっています。
7人の女の子で構成されているChamJamの中でも、えりぴよの「推し」は市井舞菜。内気な性格で、えりぴよ以外のファンがいない不人気なメンバーです。
えりぴよの舞菜オタクっぷりは他のオタク達の間でも有名です。
ライブやCD代のために、それまで持っていた服は全て売り、いつでもどこでも中学時代の赤ジャージ。
バイトをいくつも掛け持ちし、時間の都合がつきにくくなるため正社員になる気はありません。ライブでは、何時間も前から待機して常に最前列で参戦します。握手券やチェキ券付きのCDも、自分以外に舞菜ファンがいないため毎回買い占めます。
収入の全てを舞菜に注ぎ込む姿から、TO(トップオタク)として恐れられています。えりぴよの勢いが恐ろしくて、本当は舞菜も気になるけれど近づけないというオタクもいるようです。
ChamJamはたくさんのファンに愛されいますが、まだまだマイナーなグループです。メンバーもファンも、いつかメジャーデビューし大きな会場でライブをすることを夢見ています。
舞菜とChamJamの魅力をもっと知ってもらいたいと願うえりぴよは「推しが武道館に行ってくれたら死んでもいい!」と叫ぶのです。
舞菜の気持ち
そんなえりぴよが愛してやまない舞菜ですが、唯一のファンである彼女には何故か塩対応。ライブ中に声援を受けても目も合わせず、握手中もろくな会話もなく終わってしまいます。
えりぴよは、そんな舞菜も好きだと豪語しつつも、自分の愛が重すぎるせいで引かれているのではないかと悩む時もあります。
しかし、舞菜の冷たい対応は本心ではありません。本当は、いつも会いに来てくれるえりぴよを慕っています。嬉しくて、もっとたくさんお話したくても、本人を前にすると緊張してしまうのです。
不器用なところが可愛らしい舞菜ですが、物語が進むにつれ、もっと自分の気持ちを伝えようと努力します。それは、えりぴよをファンとして繋ぎ止めるためです。
しかし、舞菜はえりぴよをただのファンとして割り切れていない部分もあります。自分だけを一途に応援してくれるえりぴよが好きで、もっと仲良くなりたい、友達になりたいと思ってしまうこともあります。
当然、アイドルとファンのプライベートな交流は禁止されています。
舞菜は、えりぴよとオタク友達との仲に嫉妬して、アイドルである自分とファンであるえりぴよとの立場の違いを改めて感じ、落ち込みます。
舞菜のTOとして
そんな中、舞菜にえりぴよ以外のファンがつきます。えりぴよのオタク友達の妹で、高校生の玲奈です。
元々、舞菜の良さが他の人にも伝わってほしいと願っていたえりぴよは玲奈の登場に大喜びで、オタク活動が初めてだという玲奈に張り切ってルールなどを伝授します。
舞菜も、やっと2人目のファンができたことが嬉しくて、握手中も「また来てね」などとたくさん話しかけます。えりぴよ以外のファンには照れることもなく普通に接することができるようです。
舞菜が塩対応を改めるように努力していることを知らないえりぴよは、自分と玲奈に対する舞菜の態度の違いにショックを受けます。
ずっと応援してきた自分とはほとんど会話にもならないのに、新規ファンである玲奈には笑顔で接している・・・。
舞菜のファンが増えることを望んでいたはずなのに、それを目の当たりにすると複雑な気持ちになります。玲奈が受験シーズンに入り、あまりライブに参加できなくなることを知ると、つい喜んでしまいます。
自分の中に舞菜を独り占めしたいという気持ちがあるのではないかと気付いたえりぴよは自己嫌悪に陥ります。
舞菜がもっと大きな存在になれるように応援にたい気持ちと、自分をファンとして大事にしてほしい気持ち。
その葛藤の結果、ChamJamがどれだけ有名になり、舞菜のファンがどれだけ増えたとしても、自分が一番の舞菜オタクであり続けることを決意するのです。
2人の距離感
『推しが武道館いってくれたら死ぬ』の最大の魅力はえりぴよと舞菜の関係性です。
気持ちを素直に表現できない舞菜と、それを理解しておらず距離を感じ一方的な愛を届けることに徹するえりぴよ。
アイドルと一ファンという関係なため仕方ないことにも思えますが、他のメンバーにはファンと気持ちが通じ合っている人もいます。それに比べ、この2人はすれ違ってばかりです。
舞菜はえりぴよが自分のことが大好きだと分かってはいるのですが、それでも時々「えりぴよさんに飽きられたかも」「えりぴよさんが私以外のメンバーに推しを変えた・・・」と不安になることもあります。
えりぴよは、舞菜が自分のことを疎ましく思っているのではないかと感じながらも、一番のファンとして想いを直接アピールし続けます。舞菜と出会ってから今までもこれからも舞菜以外のことは微塵も考えていません。生活の全てを彼女に捧げています。
2人はある意味「両想い」であるにも関わらず、お互いがそれを理解していないという関係が私はもどかしいと同時に微笑ましくも感じます。いつか2人が相手の気持ちを分かり合える日がきてほしいと思いますが、このままの関係でも良いのではないかとも思えます。
ChamJam
本作品のもう一つの注目点は、やはり「ChamJamは武道館に行けるのか」というところだと思います。
ご当地のアイドルとして日々練習やライブ、営業を頑張っているChamJamのメンバー達ですが、地元の少し大きな会場ですらまだ挑戦もできないレベルです。これからどのように成長していくのか楽しみでもあります。
ChamJamの良い所を3つあげるならば、一つ目がメンバーのキャラクター、二つ目がメンバー同士の仲の良さ、三つ目が向上心だと思います。
ChamJamの7人はそれぞれ個性があります。
リーダーでセンターの五十嵐れおは最年長で唯一成人しているメンバーです。そして唯一、以前にも他のグループでアイドル活動をしていた人物です。
2番人気の松山空音はしっかり者なのにたまに抜けているところが可愛い子です。
伯方真妃は大人っぽい見た目の美人でクールなセクシー担当です。
水守ゆめ莉はダンスが得意な子で、性格はおっとりしています。
寺本優佳は天真爛漫で空気が読めませんが、歌もダンスも得意で才能があります。
横田文は小柄で幼い見た目ですが、メンバーの中では一番人気取りに貪欲で、アイドルとしての意識が高いです。
そして、市井舞菜。加入が一番遅かったこともありなかなか前に出られませんが、数少ないファンのために努力を怠りません。
性格がバラバラな年頃の女の子の集団で活動しており、グループとはいえアイドルは個人の人気も重要なため、私はこの作品を読み始める前は、メンバー同士の蹴落とし合いなどが起るような殺伐とした雰囲気なのではないかと恐れていました。
しかし、ChamJamは全員仲が良いです。当然、喧嘩をすることもありますし、人気順位を決める投票選挙の時はメンバーがライバル関係であることが描かれてもいますが、基本的には支え合って一緒に夢を追いかけています。
普段から上を目指しているメンバー達ですが、隣県で大人気のご当地アイドルのライブを見学した時や東京で路上ライブに挑戦した時、自分達の実力の無さを痛感します。
特に、過去に別グループでの活動の失敗経験を持つれおは、自分の年齢的にも焦りを感じます。
その気持ちを汲み取り、他のメンバーももっと頑張って必ず武道館でライブをしようと約束します。
えりぴよや他のオタク達がハマるのも分かるくらい応援したくなるグループです。
一生懸命な彼女達の努力が報われる日がくることを願っています。
ギャグ要素とご当地ネタ
メインのストーリーとは関係ないものの、この作品を面白いと感じる理由の一つは、ユニークなギャグ要素が盛り込まれているところだと思います。
たとえば、えりぴよは主人公で女性であるにも関わらず、序盤から舞菜への愛を叫びながら鼻血を噴きます。
他にも、メンバーにはそれぞれメンカラ―というイメージカラーが与えられており、舞菜はサーモンピンクです。サーモンピンクという名前とその微妙さを表現するためか、衣裳にサーモンを模したものが使われているなどさりげないギャグが多いです。キャラクターの台詞も面白く、つい笑ってしまいます。
また、物語の舞台である岡山県は作者の平尾アウリ先生の出身地でもあり、ところどころにご当地ネタが見られます。背景も実際に岡山の建物などが描かれいます。
他にも、岡山県の名産であるマスカットやきびだんごが登場したり、近所の香川県との微妙な関係が描かれていたりと、岡山に馴染みがある人ならよく分かるネタが多々あります。
もちろん岡山のことを全然知らない人でも、あらすじには関係ないギャグ部分として楽しめますし、少しでも岡山を知るきっかけになると嬉しいです。
『推しが武道館いってくれたら死ぬ』の見どころについてのまとめ
1 TO(トップオタク)えりぴよ
地下アイドルChamJamのメンバーとして活動する市井舞菜を溺愛するえりぴよ。
彼女の日常は舞菜一色です。しかし、舞菜もChamJamというグループ自体も世間的にはほぼ無名です。メンバーもファンもChamJamがいつか大きな舞台に立つことを目指しています。
作品名は、舞菜の活躍を願うえりぴよの「推しが武道館に行ってくれたら死んでもいい!」という台詞からきています。
2 舞菜の気持ち
それほど熱心に推してもらっているにも関わらず、舞菜はえりぴよに冷たい態度をとります。しかし、それはえりぴよを嫌っているからではありません。むしろ応援してくれる彼女が好きすぎて素直に気持ちを表せないのです。
また、えりぴよに対して、ファンとしてでなく一人の人間として仲良くなりたいという気持ちも抱いています.
3 舞菜のTOとして
初めて舞菜にえりぴよ以外のファンがつきます。玲奈という高校生の女の子で、自分と歳も近いことから、喜ぶ舞菜。一方えりぴよは、自分にはめったに向けられない笑顔で接してもらっている玲奈に嫉妬します。
舞菜ファンが増えることを望んでいたにも関わらず悔しい気持ちになったことで、自分は舞菜に特別視してもらいたかったのではないかとファンとしては出過ぎた感情に気付きます。それでも舞菜の活動を見守っているうちに、ファンが何人に増えようと自分が舞菜のTOでいることを誓います。
4 2人の距離感
この漫画の最大の見どころは、えりぴよと舞菜の関係がどうなるのか・・・というところです。アイドルとして、ファンとして、人間として、お互い大好きなのに、気持ちが通じ合わない2人を、時にはもどかしく、時には微笑ましく見守ることがこの作品の楽しみ方だと思います。
5 ChamJam
えりぴよと舞菜の関係の展開が気になるところですが、舞菜が属するグループChamJamの今後も楽しみな所です。まだまだマイナーなグループですが、個性的なメンバー達が一丸となって、武道館でのライブを叶える日を見届けるのが待ち遠しいです。
6 ギャグ要素とご当地ネタ
漫画の本筋とは別に、ギャグや岡山の地域ネタも魅力の一つです。実際に読んでもらえば分かると思いますが、ところどころで笑えます。
アイドルやファンのことはよく分からない、キラキラした雰囲気は苦手、という方でも手に取ってもらいやすいのではないでしょうか。
考察と感想
『推しが武道館いってくれたら死ぬ』は、徳間書店発行の『月刊COMICリュウ』
にて2015年から連載されています。著者は平尾アウリ先生です。
人気漫画であり、2020年1月からTBSなどでアニメが放送されました。視聴者層は若い男女が中心であり、2020年冬アニメの高評価ランキング上位でした。
私は、この作品をアニメ化される前に知りました。最初は、地元岡山のアイドルが題材で、表紙の絵も綺麗だからという理由で何となく手に取ってみたのですが、読んでいくうちに世界観に引き込まれていきました。
今後の展開が気になりますが、著者としては、ChamJamメンバー一人一人の過去や現在の気持ちなどがもう少し掘り下げられたら嬉しいと期待しています。そしてもちろん、武道館でのライブという夢が叶うこと、えりぴよと舞菜の関係に進展があることを多くの読者が願っていると思います。
えりぴよと舞菜の2人が、お互いの気持ちを理解し合う日がくるのか、微妙なすれ違いを抱えたままChamJamが大舞台に立てる日まで交流が続くのか・・・。
いずれにしても、読んで良かったと思える展開になると確信しています。
以上、『推しが武道館いってくれたら死ぬ』の紹介でした。
人気作でアニメにもなった作品です。現在7巻まで発売されています。
ぜひ、読んでみて下さい。