現在のところ基本的に一話や前後編で一つのお話が完結するスタイルであり、誰でも読みやすい漫画となっています。高柳は倫理を用いて問題のある生徒に語りかけます。分かりやすく解説してくれるため、小難しくなく、漫画を通して楽しく倫理に触れることができ、少し賢くなった気分になれます。
この記事を読むと、簡単に『ここは今から倫理です。』の概要と魅力を知っていただけます。
以下はネタバレ記事です。ご注意ください。
内容紹介
こちらの動画は集英社公式のスペシャル映像です。作品の雰囲気などが動画で見て分かるため、漫画を未読という方にもおすすめです。
「知らない事」
第一話の主役となる生徒は、逢沢いち子という女子生徒です。彼女と高柳の出会いは、高校の教室で男子生徒と性行為をしていたところを彼に目撃された時。高柳は、未成年である彼女らの行為そのものを叱るわけではなく、場所と時間が悪いと注意し、「ここは今から倫理です。」と授業が始まることを告げました。
それから1年後、逢沢は、高柳が担当する選択科目の倫理を履修します。
高柳は、授業の初回で、倫理を学ぶことは社会に出て役に立つことはほとんどない、と説明します。しかし、例えば、死が近づいた時に人が救いを求める宗教とは何か、より良い生き方とは、幸せとは、ジェンダーとは、いのちとは・・・。別に知らなくても良いけれど、知っておいた方が良い気がするものが倫理だ、と高柳は言います。
逢沢は最初から高柳を誑かすことを狙っており、授業終わりに、クールな彼のもっと色々な表情が見たいと、スカートの中を高柳に見せます。
しかし高柳は、顔色一つ変えず「花魁って知っていますか」と尋ねます。戸惑う逢沢に、花魁になるのは”教養”が必要だと解き、”教養”がない逢沢はタイプではないと言います。例えば書道部に入ってはどうかと勧め、逢沢の色仕掛けを全く相手にせずに帰ります。
それから、逢沢は徐々に高柳の言葉を意識し始め、書店で本を見てみたり今までしてこなかった学校の勉強にも取り組み始めたりします。男友達の誘いにも乗らなくなりました。それを面白く思わなかった男子たちは、付き合いの悪さを罵り、無理やり襲おうとします。
そこに、他の生徒から聞きつけた高柳が現れ、助け出します。
落ちこむ逢沢に「あなたが倫理の授業を選んでくれてよかった」と言う高柳。
「倫理は人の心に触れ、自分の心に触れてもらう授業」と話す高柳に、逢沢はやっぱり先生のことが好きだと言います。
勉強して、字も綺麗に書けるようになり”教養”を身につけると宣言する逢沢に、高柳は「”愛こそ貧しい知識から豊かな知識への架け橋である” マックス・シェーラー」と哲学者とその人が説いた言葉を告げ「ではまた倫理の時間に会いましょう」と言い残します。
「教師の資質」
高柳の倫理の授業には、普段保健室登校をしている都幾川幸人という男子生徒が出席しています。授業が終わると高柳と一緒に保健室に戻るのですが、その途中、大好きなゲームの話を聞かせながら高柳の腕にしがみつくなどスキンシップが激しい都幾川。
親に暴力を振るわれて育った彼は、大きな声を出す人が苦手で、静かな声で丁寧に話す高柳のことをとても気に入っています。だから大目に見てほしいと養護教諭は言いますが、高柳はそれを拒否します。
その理由は、もしそれが女子生徒であればスキンシップは許されないからです。腕を組んだだけでも教師のセクハラと言われてしまうご時世。都幾川が男子生徒だから体の接触を許し、それによって救おうとすることは正しくありません。
その高柳の本心を立ち聞きしてしまった都幾川はショックで逃げ出します。追いかける高柳に、本当は邪魔な自分のことなど放っておいてくれと叫びます。高柳は「私は貴方の心を救いたい」と必死に言葉をかけます。
その言葉に、都幾川は高柳に向き直り「ギュッてして」と言い、両手を広げます。高柳は、引きつった笑みを浮かべながら、固まってしまいます。それを見て再び走り出す都幾川。高柳はその背中を抱きしめます。
振り返った都幾川は「そんな顔させるつもりじゃなかった」と言い、謝罪を繰り返して立ち去ります。
その後、高柳は彼を救うことができなかったことを悔み、自分はどうすれば良かったのかと苦しむのです。
「切っちゃおうかな」
高崎由梨は一見真面目で明るい普通の生徒ですが、小学生の時からリストカットを繰り返しています。死にたいわけではなく、ストレスが溜まった時や悲しい時に血を見ると落ち着くからだと本人は言います。
リストカットのことを知り心配する友達に対して偽善だと不信感を抱き、当然親にも隠していましたが、とうとう母親に見つかってしまいます。やさぐれて、生きることも面倒だと考えるようになった高崎は、倫理の授業中にこっそり鋏で手首を切ります。
それを見てパニックになったのは、趣味のゲームをきっかけに彼女と親しくなり始めていた都幾川です。高崎に覆いかぶさって鋏を叩き落とし「誰かにやられているわけでもないのに何をやっているんだ」と泣き叫びます。
2人を連れて行った保健室で、何があったのかと尋ねる養護教諭に、高柳は見たままのことを伝え、それ以上のことは知らないと冷めた返答をします。
高崎のリストカットは、その行為自体が”救い”である場合もあるから「止めろ」とは言いづらいが「続けろ」と言うわけにもいかない。
都幾川の刃物恐怖症の原因は、本人が教えてくれないから分からない、他人である自分には一生分からない。
そう言う高柳に、養護教諭は、分からないなら知る努力をしようと言い返します。
しかし、高柳は、彼らが戦うべきは自分自身であり、無理やり介入することは彼らにとって敵を増やすことであると言います。
半年以上かけて”正しいこと”について倫理を話し続けても、自分の愛も誠意も向こうに受け取る気がなければ一切届かない、と嘆きます。
「ネクタイと僕」
逢沢や都幾川、高崎など、倫理を学んでいた生徒たちの学年が卒業し、ここからは新たに2年生になった生徒たちの物語になります。
沖津叶太は「Xジェンダー」の自覚があり、体は男性ですが女性のファッションに関心があり化粧をして登校しています。校則であるネクタイも着けたことはありません。周りから浮き、友達は一人もいません。
ある日、沖津は服装検査で引っ掛かり、高柳に呼び止められます。反抗し、その後も違反を続ける沖津に理由を聞くと、ルールに従いたくないから、ネクタイを着けたくないからと返します。
すると高柳は、沖津が自分の性に違和感があるのではないかと何となく察しながらも、沖津がルールを破り続ける限り自分は注意し続けると言います。「嫌ならルール自体を変える努力をしてみなさい」と。
署名を集めてみてはと勧め、哲学者のミルの言葉を引用し「”信念を持った一人の人間は自分の利害にしか興味のない99人の人間と同等の社会的力を持つ”」と言って微笑みます。
その後、沖津はネクタイを持って登校し、着け方が分からないから、と高柳に教えてもらいます。それでも屈する気はなく、1年後、倫理の授業に現れた時もネクタイはしていません。高柳は沖津のことを覚えており、「貴方は99人のうちの一人ではきっとない」と言います。
そして、これから沖津を含めた新たな12人の生徒への倫理の授業が始まるのです。
感想
心を”救う”
この漫画は、現在4巻まで単行本が発売されており、逢沢たちの学年で倫理の授業を選択している15人の生徒全員にスポットが当てられています。
様々な悩みや問題を抱えている生徒たち。
平凡な高校時代を過ごした私には想像できないような壮絶な生い立ちや苦しみを持っている生徒や、私にも少し身に覚えのあるような、些細であっても年頃の子どもにとっては大きな問題を抱えている生徒に倫理を通じて向き合う高柳。
生徒の心を救うと言っても、問題を全てすっきり解決するわけではないのがこの漫画の読み応えのあるところだと感じました。
ある程度救うことができたという話ももちろんあります。
例えば、毎日夜遊びなどをして学校では居眠りばかりの生徒を心配した高柳は映画を見ることを勧め、そこからその生徒との交流が生まれます。
この話では、何にも縛られず自由な分、不安になりくだらないことばかりしてしまう生徒の心を埋めることができたと言えると思います。
しかし、普段全く言葉を発さないという生徒については、一緒に食事を取るなどして寄り添いますが、結局その生徒は高柳との会話の中で一言話しただけで終わります。喋らない理由も説明されません。高柳が、その生徒が喋ることが”救う”ことだと捉えていたかは分かりませんが、少なくとも何かを解決できたわけではないと思います。
そして、何より都幾川が一番救われることがなかったのではないかと思います。とても慕っていた高柳に、触れ合いを拒絶され、無理やり抱きしめてもらったものの「そんな顔」をさせてしまった都幾川。
この時の都幾川は、苦しむ高柳とは対照的にどこか満足そうな表情をしている気もするのですが、それが何を示すかは私には分かりませんでした。そして、高崎のリストカットの件で、都幾川が高柳に完全に心を開いていたわけではないことが見えます。
刃物恐怖症によりパニックに陥ってしまったこと自体より、高柳には何も言わず高崎と2人の間で慰め励まし合い、完結してしまっていることがそれを示していると思います。
そして、その都幾川たちはそのまま卒業していきます。この後この子たちはどうなるんだ・・・とも思いましたが、生徒全員の問題を全て解決して気持ち良く卒業となるよりも現実的で良いと感じます。
また、読者はある意味高柳たち教師と同じ目線かもしれないと思います。生徒たちの過去にも未来にも関わることはできません。今起こっていることや感じていることを生徒の方から発信してもらわないと立ち入ることができないという高柳の言う通りだと思います。
倫理とは
私は、この漫画を読んで「倫理とは何か」を考えました。高柳の生徒と向き合う姿勢から、”正しいこと”なのだろうと推測できますが、では何が”正しいこと”なのか。
作中で高柳が言うように、「リストカットはしない方がいい」というのは正しいでしょうが、無理やり止めさせることが正しいかというと疑問です。
授業の最後、高柳は15人の生徒を個人主義と全体主義に分けてディベートをさせます。
生徒たちは自分の経験などを持ち出しながらたくさん意見を交わします。そして、結論を求める生徒たちに高柳は「明確な解決方法は提示できない」と言います。
どちらの意見も、正しくも間違ってもいる、どうするべきかというと「相手側の気持ちになって考えてみる事」という当たり前のような答えを言います。
この高柳の言葉から、正しさというものは、決まりきったものではなく、自分や他者との関係の中で揺らぐものではないかと考えました。
まとめ
ドラマ「ここは今から倫理です。」メインビジュアル&11人の生徒役発表(コメントあり)https://t.co/bzr4yowk6u
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— コミックナタリー (@comic_natalie) December 15, 2020
集英社の月刊誌『グランドジャンプむちゃ』で連載中の『ここは今から倫理です。』をご紹介しました。作者は雨瀬シオリさんです。かなり注目されている作品で、2021年1月にはテレビドラマがNHKで放送されます。高柳役は山田裕貴さんです。生徒役のキャストも決定しています。是非公式サイトもご覧になってみてください。
登場人物の生徒たちはそれぞれ苦悩を抱えており、自分が経験したわけでなくてもつい感情移入して読んでしまいます。今回紹介しきれなかった話もどれも面白いため是非読んでいただきたいです。
5巻以降、話の中心になっていくであろう沖津たちの学年の登場も楽しみです。個性が強そうな12人の生徒の姿が描かれていたため、今後も変わらず読み応えのある話になっていると思います。
そして、高柳自身の過去にも注目です。時折、高柳も心に何かを抱えているような描写がされています。過去の出来事や何故倫理教師になったのか、などこれから明らかになっていくはずです。
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